居酒屋トラベラー|山手線編

予備知識なしに駅を降り、勘を頼りに暖簾を潜ります。20世紀はそれが当たり前だったよね。https://www.google.com/maps/placelists/list/1ekzdkjuHE37nxeKtLhZsaaHUL6s?hl=ja

新橋トラベラー|烏森口の地下街で飲む酒に亜熱帯の記憶を呼び起こす!

1.お店の情報

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 2.新橋トラベラー

    • まとめ
      サラリーマンの原宿、新橋駅前にデンと佇むニュー新橋ビルの地下1階は個性的な居酒屋が軒を連ね各店舗の看板娘が片言に客を呼び込む横丁だった。1周5分の環状通路には建物内ゆえに扉のしつらえが無い居酒屋が多く並び、客の入りや雰囲気、生ビールの値段を垣間見ながら店選びができる。3週回って選んだ店は、福建省厦門出身の2人が切り盛りする「 田はら」。朝食、ランチも提供するこの店は看板娘の気さくで明るい呼び込みもあってか適度に常連客が入っており、盛り上がっていて「間違いない」と感じさせる何かがあった。

    • JR新橋駅烏森口に降りる
      新橋と言えばサラリーマン。新橋と言えばSL広場ということで日本のテレビ番組が行う街角インタビューでは、何かにつけて新橋SL広場へカメラがおもむき陽気なお父さんたちの自説を採取するのが定番となっている。
      SL広場のSLは新橋駅が日本の鉄道発祥の地であることに由来し、他にも銀座線や東海道線横須賀線が停車する上、20年前の未来都市お台場へ観光客を運ぶユリカモメの始発でもある。もしも山手線内で野球チームをつくるなら間違いなくスタメン入りする駅と言えるのではないだろうか。
      その立地は、中央官庁霞が関と銀座のほぼ中間に位置し、移転が計画される築地市場にも近く、虎の門にかけて広がる中小ビル群には商社、公益法人が官庁のおひざ元で店を構え多くのサラリーマンが毎朝通い毎夕家路につく、まさに昭和日本を支えてきた街をシンボリックに象徴する。
      海外の方がここへ来れば日本のサラリーマンが必ずしもエコノミックなアニマルでも、ハイテクポップカルチャーな風貌でもないことがよくわかるんじゃないかな。
      今回新橋に降りた私たちは、出口に椎名誠が自叙伝的な小説のタイトルに選んだ烏森口を選んだ。「からすもり」の所以は忘れたけれど、これ程までに哀愁漂う駅改札口があるかなと。夕暮れ時に降りるべき改札口という気がする。サザンテラス口など風情もない名づけに迎合した新宿駅や、もはやどこに出口があるのか不明な駅と化した東急渋谷駅とは歴史の重みがさすがに違う。

     

  • ニュー新橋ビルへ
    烏森口は、他の汐留口が大企業や銀座、お台場に向けて明るいイメージを持つのに対して、どこか哀愁漂うビル群が目の前に広がる様は居酒屋を巡るのにふさわしい。改札を出て右手には「何かある!」感が半端ない、安定感たくましいニュー新橋ビルが「デン」と佇み、ビル1階にこそスーツ店や宝くじラッキーセンターなど駅前らしい店舗が広がるものの、現在の工業規格よりも幾分狭く感じるエスカレータで2階へ上がれば、ゲームセンターでは重役思しきサラリーマンが猫背でコインゲームに勤しみ疲れた空気を醸し出し、その先にはマッサージ店が連続するという実に新橋感あふれる雰囲気が漂っている。
    どうやら、目的の居酒屋街は地下にある。
    足元よりもベルトの方が早く進んでいくエスカレータで地下フロアへ降りてゆけば、直近店舗の看板娘が待ち構えるのが見えてきて、ベルトコンベアー方式に呼び込みの餌食にかかる仕掛けとなっている。その店も決して悪い雰囲気ではなく生ビールも良心的な価格設定がホワイトボードに手書きされているものの、すぐ左手からは回遊式の居酒屋環状線が広がる様子が目に入るため、一軒一軒覗いてゆくことにする。最初に呼び込みをかけてきた2人の女の子も「1周したら来てね」と笑いながら送り出すあたりに、「何かあるぞ!」的予感はますます高まる。

  • 飲み始める、そして語り、また飲む
    「家庭料理 田はら」にたどり着いたのは3周目に入ったところであった。途中、圧倒的に中華系店舗が目立つものの、地下とは思えない勢いで海鮮物を焼く炉端焼きの店や、渋い顔をしたおやじが新聞を広げる店など、気になる店は多かったものの、家庭料理 田はらは呼び込みが自然でうまく、また先客もある程度多かったことから決めた。

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    店の間口は決して広くなく、すぐにカウンターが奥へ伸びている様子が、地下道から丸見えになっている。カウンターの先は一段高くなり、テーブル席が4つほど並びどうやら常連と思しき面々がワイワイやっている。カウンターの中できびきびした女性が一人で切り盛りしている様子だった。
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  • 席は常連さんへの遠慮もあり、カウンターに陣取り生からスタート。
    チーズの揚げ物や、ゴボウのから揚げに箸も進み、酒も進む。お互いにテーマを持ち寄ったが最初のテーマは時節柄、シャルリーエブドに端を発してフランス国内を中心に欧米に拡散した(とされる)「表現の自由」を求めるデモ行進をきっかけに、酒の勢いもあり懐疑主義的飛躍やフランス革命以降手にした諸権利へと政治的に広がってゆくかと思えば、76世代に懐かしい宮崎ますみのXX(ダブルエックス)のインパクトについて話が飛ぶなど、こじれたサブカル系中年男子にふさわしい話題へと広がってゆく。
    店との会話が弾みだしたのは、常連客と看板娘による丁々発止のやり取りが始まってからだった。詳細は後日テープ起こしで公開できようかと思うが、そのやり取りは客を客とも思ず、店を店とも思わないやり取りではあったが、(件の常連さんは途中料理場を切り盛りする店主に焼肉のたれを買出しに行かされていた(笑))筆者らが「居酒屋かくあるべし」と思えるような店と客の近さを感じるような、微笑ましく、どこか懐かしくされ思えるやり取りであった。これをきっかけに店主ともぽつぽつ会話を進めることになり、それによれば、彼女らは厦門(アモイ)出身で、昼間は本当の女将が切り盛りしてランチなどは盛況であること、年中無休で9時から深夜まで営業していること、2階のマッサージ店とは系統が異なり(出身地が違う?だっけな)あまり交流は無いということだった。
    厦門と言えば、筆者は思春期に、ポルトガルの影響を色濃く受け亜熱帯の常緑樹がまばらに広がるレンガベースの素敵な厦門の街並みを映した写真を憧憬をもって日々眺めていた。

     中国南部からインドシナ半島、インドへ連なる原アジア的な地域への憧れはその後、沢木耕太郎深夜特急」(特に前半3分の1)への熱狂につながり、今は俳優司会者としてベテランのユースケ・サンタマリアがビンゴボンゴというラテンバンドのメインボーカルをしながら深夜枠で司会をしていた伝説的音楽番組「アジアンビート」への更なる熱狂に繋がっていったのを走馬灯のように思い出したものだ。

        

    これらのきっかけになった厦門の街並みの素晴らしさを、生ビールから焼酎に移行しつつあった連れ合いに力説したものの、彼がググって出てきた街は、汐留シオサイトかと思わんばかりの高層ビル群が広がる実に現代的で中国的な近未来都市「厦門」に様変わりしていたのだった。
    2~30年の時が流れるということはそういう事なのだろう。
    厦門はそんな感じよ、ウチはそこからバスで6時間かかるよ」
    と店主は言う。

    近代的な厦門にもきっと再開発の計画があり、この地下居酒屋街のような素敵な場所があり、昔を懐かしみながら酒を飲む、自分に似た誰かがいるんではないか?
    店主に差し出された焼酎を飲みながら、ふと錯覚した。

  • 再開発計画
    そしてこの烏森口一帯にも大規模再開発の計画が、、、

    新橋駅前のSL広場が無くなるかも?ニュー新橋ビルを取り壊し、大規模開発が行われる予定のようです。 - SONOTA

    5月19日に都会のオアシス綱島温泉もいったん閉館するらしく。。味のある空間が無闇におしゃれな空間にならなければ良いなと思う。